会社を離れる決断をしたものの、その後の生活資金に懸念を抱き、次の一歩をためらってしまう方は少なくありません。
「退職後に受け取れるお金には、どのような種類があるのか?」といった疑問は、誰もが抱くものです。
この記事では、退職後の経済的な基盤となる各種給付金制度について、その仕組みや条件を一つひとつ丁寧に紐解いていきます。これらの制度を正しく理解し、安心して新たなキャリアへ進むための準備を整えましょう。
失業保険:再就職までの生活基盤となる給付金
失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)は、職を離れてから新しい仕事に就くまでの間の生活を経済的に支えることを目的とした、社会保障制度の根幹をなすものです。
この制度があることで、焦らずに自分に合った再就職先を探すための時間を確保できます。
失業保険の受給対象となる方
失業保険を受け取るには、まず雇用保険の被保険者であることが大前提です。
具体的には、以下の基準を満たす方が対象となります。
パートタイマーやアルバイトといった雇用形態に関わらず、要件を満たしていれば対象に含まれます。
項目 | 基準 |
---|---|
雇用期間の見込み | 31日以上、継続して雇用される見込みがあること。 |
週の所定労働時間 | 1週間の定められた労働時間が20時間以上であること。 |
失業保険を受給するための主要条件
被保険者であった方が失業保険を受給するには、下記の3つの条件をすべて満たす必要があります。
条件 | 内容 |
---|---|
失業の状態にあること | 働く意思と能力があり、積極的に仕事を探しているにもかかわらず、職業に就けていない状態を指します。学業に専念する方や、病気・ケガですぐに働けない方は対象外です。 |
一定の被保険者期間があること | 原則として、離職日以前の2年間に、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月が通算して12ヶ月以上必要です。ただし、会社の倒産や解雇、正当な理由のある自己都合退職などの場合は、離職日以前の1年間に通算6ヶ月以上に緩和されます。 |
求職活動の実績があること | ハローワークが定める失業認定日に、原則として2回以上の求職活動を行った実績を報告する必要があります。 |
失業保険の支給額について
支給される1日あたりの金額を「基本手当日額」と呼び、これは「離職前6ヶ月間の賃金合計 ÷ 180 × 給付率(45~80%)」で算出されます。給付率は賃金や年齢によって変動し、1ヶ月あたり最大で28日分が支払われます。給付を受けられる総日数(所定給付日数)は、90日から330日の間で、離職理由や雇用保険の加入期間に応じて決まります。
年齢・賃金別に見る基本手当日額の目安
離職時の年齢 | 賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額(上限) |
---|---|---|---|
29歳以下 | 2,746円 ~ 13,890円 | 80% ~ 50% | 6,945円 |
30~44歳 | 2,746円 ~ 15,430円 | 80% ~ 50% | 7,715円 |
45~59歳 | 2,746円 ~ 16,980円 | 80% ~ 50% | 8,490円 |
60~64歳 | 2,746円 ~ 16,210円 | 80% ~ 45% | 7,294円 |
※このテーブルは賃金日額の範囲と上限額の目安を示したものです。実際の金額は個別の状況により異なります。
【注意点】受給期間中にアルバイトなどで収入を得た場合、その収入額によっては給付が減額または停止されることがあります。不正受給と判断されないよう、就労した事実は必ずハローワークに申告してください。
傷病手当金:業務外の病気やケガによる休業を保障
傷病手当金は、業務とは関係のない私的な病気やケガが原因で仕事を休まざるを得なくなり、会社から十分な給与を受けられない場合に、被保険者とその家族の生活を支えるために設けられた制度です。
傷病手当金の受給対象となる方
この手当金は、健康保険の被保険者が対象となります。勤務先の健康保険に加入している正社員や、一定の条件を満たす契約社員、パートタイマーなどが含まれます。
傷病手当金を受給するための4つの要件
傷病手当金を受け取るには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
要件 | 詳細 |
---|---|
業務外の事由 | 仕事中や通勤中のケガ(労災保険の対象)ではなく、私的な理由による病気やケガでの療養であること。美容整形など、病気と見なされないものは対象外です。 |
就労不能な状態 | 療養のために、これまで従事していた仕事ができない状態であること。医師の診断書などに基づき判断されます。 |
連続する待期期間 | 休業した日が連続して3日間あること(待期期間)。この3日間には有給休暇や土日祝日も含まれます。 |
給与の支払いがないこと | 待期期間後の4日目以降、休んだ日に対して会社から給与が支払われていないこと。もし給与が支払われても、傷病手当金の額より少なければ、その差額が支給されます。 |
傷病手当金の支給額
1日あたりの支給額は、「支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2」という計算式で算出されます。支給期間は、支給が始まった日から通算して最長1年6ヶ月です。
就職促進給付:早期の再就職を金銭面で支援する制度
就職促進給付は、失業保険の受給資格がある方が、給付期間を満了する前に安定した職業に就いた場合に支給される手当の総称です。
早期の社会復帰を促すインセンティブとして機能します。この給付には、状況に応じて4つの異なる種類があります。
就職促進給付の4つの手当
手当の種類 | 概要 |
---|---|
再就職手当 | 失業保険の所定給付日数を一定以上残して、1年以上の雇用が見込まれる安定した職業に就いた場合に支給されます。 |
就職促進定着手当 | 再就職手当を受給し、再就職先で6ヶ月以上勤務を継続したものの、離職前の賃金より低下した場合に、その差額の一部が補填されます。 |
就業手当 | 再就職手当の対象とならない、パートタイマーなどの短期間・非正規の仕事に就いた場合に支給されます。 |
常用就職支度手当 | 障害のある方など、就職が比較的困難な方が安定した職業に就いた場合に支給される手当です。 |
各手当の受給条件と支給額
それぞれの手当を受け取るためには、個別の条件を満たす必要があります。
1. 再就職手当
再就職手当の主な受給要件 | |
---|---|
支給残日数 | 失業保険の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること。 |
雇用期間 | 1年を超えて勤務することが確実であると認められること。 |
待機期間 | 受給手続き後の7日間の待機期間が満了した後の就職であること。 |
過去の受給歴 | 過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当を受給していないこと。 |
その他 | 離職前の事業主に再雇用されたものではないこと。雇用保険の被保険者資格を取得する雇用であること。 |
【支給額】
支給額は、失業保険の基本手当日額と支給残日数によって変動します。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合:支給残日数 × 70% × 基本手当日額
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合:支給残日数 × 60% × 基本手当日額
2. 就職促進定着手当
就職促進定着手当の主な受給要件 | |
---|---|
前提条件 | 再就職手当の支給を受けていること。 |
継続雇用 | 再就職先に6ヶ月以上、継続して雇用されていること。 |
賃金比較 | 再就職後6ヶ月間の賃金が、離職前の賃金よりも低いこと。 |
【支給額】
(離職前の賃金日額 - 再就職後6ヶ月間の賃金日額)× 再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎日数
※ただし、上限額が設定されています。
3. 就業手当
就業手当の主な受給要件 | |
---|---|
支給残日数 | 失業保険の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上あること。 |
雇用形態 | 再就職手当の支給対象とならない形態(例:1年未満の契約期間)の職業に就いたこと。 |
【支給額】
就業日数 × 基本手当日額 × 30%
※1日あたりの支給上限額が定められています。
4. 常用就職支度手当
常用就職支度手当の主な受給要件 | |
---|---|
対象者 | 身体障害者、知的障害者、精神障害者、45歳以上の中高年齢者など、就職が困難な方。 |
雇用期間 | 1年以上継続して雇用されることが確実であると認められる職業に就いたこと。 |
タイミング | 待機期間満了後、または給付制限期間が経過した後の就職であること。 |
【支給額】
支給額は、基本手当日額の90日分を上限として、支給残日数に応じて決定されます。
利用可能な制度を理解し、安心して未来へ踏み出すために
この記事では、会社を退職した際にあなたの生活を支える、様々な公的給付制度について解説してきました。
失業中の生活を守る「失業保険」、療養に専念するための「傷病手当金」、そして早期の再就職を後押しする各種「就職促進給付」など、私たちのキャリアの転機には、数多くのセーフティネットが用意されています。
これらの制度は、申請をしなければ利用することはできません。まずはご自身がどの制度の対象となり得るのか、下記の表を参考に状況を整理してみましょう。
このような状況の時に | 考えられる主な支援制度 | 制度の目的 |
---|---|---|
次の仕事を探している | 失業保険(基本手当) | 再就職までの生活を安定させる |
病気やケガで働けない | 傷病手当金 | 療養中の所得を保障する |
早く再就職が決まった | 再就職手当 | 早期の社会復帰を奨励する |
会社の倒産で給与が未払い | 未払賃金立替払制度 | 労働者の生活を守る |
退職は、これまでのキャリアを見つめ直し、新たな可能性を追求する絶好の機会です。
しかし、経済的な不安が大きければ、その一歩も重くなってしまいます。会社の就業規則で退職金の有無を確認したり、お住まいの地域を管轄するハローワークへ事前に相談したりと、早めに情報を集めて準備を進めることが重要です。
公的な支援制度という心強い味方の存在を知り、それを賢く活用することで、金銭的な懸念を和らげることができます。どうか自信を持って、あなたらしい次のキャリアを築いていってください。
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